「にごり湯ってなんて神秘的…。」
私がどっぷりと温泉の世界にハマっていったのは、数々の“にごり湯”に魅了されたからです。
ミルクのような白色、南国の海のような青色、ビードロのような緑色、レモンのよう
な黄色、あめ色のような赤茶色、墨汁のような黒など、日本の温泉はカラーバリエーションまでとても豊か。

私たちに人間が姿形や性格が一人一人違うように、温泉も一つとして同じものは存在しません。
その個性を視覚的に、誰でも簡単に感じられるのが“にごり湯”の魅力なのかもしれません。

モール泉といわれる有機物を含む温泉を除いては、地中から湧きだしたときにはほとんどの温泉が透明です。
それが、酸素の影響で時間が経つにつれて色づいてきます。
しかも、温泉は生き物なのでいつでも色が一定とは限りません。
天候や成分の違いなどで変化することもあるのです。
私も何度もその体験をしたことがありますが、同じ施設に訪れても白、緑、透明、青、黒と五色に変化する温泉もあります。

しかし、にごり湯の数は多くありません。
にごり湯が多いエリアは固まっていることが多いですが、全国的にみると私の感覚では1%に満たないのではないかと思います。
そんなレアで贅沢な“にごり湯”に出会い包まれる幸福感は、天にも昇る心地です。
温泉の成分や浴感、鮮度など人それぞれ温泉を選ぶ好みは違いますが、色がついて濁っていることで「温泉にやって来た!」「何だか効いている気がする!」「濁っていてキレイ!」と、五感がはたらき、非日常を十二分に感じられることが“にごり湯”の醍醐味だと感じます。

これまでの温泉とのたくさんの出会いの中で、衝撃的で忘れられない思い出の温泉があります。
それは、熊本県にある「岳の湯温泉 豊礼の湯」です。
まだ、温泉巡りを始めて間もない頃、この世のものとは思えない美しいミルキーブルーの湯を目にしたときに、本当に感動しました。

人工的ではなく自然の色で、空や海のような青色が存在するのだと。
まさに、湯船に身を預けた瞬間から別世界へと誘ってくれたのです。
それから、もう数え切れないほどここへ通っていますが、いまだに浴室の扉を開ける時にはとてもワクワクします。

ほかにも、感銘を受けた温泉があります。
熊本県にある「地獄温泉 青風荘」です。
(※2016年4月の震災の被害を受け、2019年12月現在復旧中)

こちらの宿の代名詞である“すずめの湯”は、鉱泥を含む灰色のにごり湯。
しかも、足元から湧き出る温泉。
つまり、生まれたての源泉にそのまま浸かれる全国でも大変希少な温泉です。
プクプクと元気に湧きだす源泉の音や泡を見ていると、地球のエネルギーと息吹を感じ、この自然界で生かされていることの感謝の念がわいてきます。
こちらは混浴ですが、“湯浴み着(入浴着)”を着て入るので、女性でも安心して入ることができます。
混浴はなかなかハードルが高いですが、にごり湯なら入ってしまえば見えないのでそれもメリットですよね。

例えば、秋田県にある「乳頭温泉 鶴の湯」、長野県にある「白骨温泉 泡の湯」、大分
県にある「明礬温泉 別府温泉保養ランド」も混浴ですが、入りやすいように入り口がス
ロープや階段になっていて目隠しがされてあるので、抵抗感がある女性にもおすすめです。

この筆をとりながら、改めて日本の温泉の奥深さを感じています。
資源数も泉質のバリエーションも日本は世界一の温泉大国。
47都道府県すべてに温泉があります。
こんな温泉が身近な国に生活しているなら、その恩恵を受けないなんてもったいないと思いませんか?

私は、悩みや考え事があるとき、人生の節目節目には必ず温泉地で過ごしています。しかも、なぜか自然と“にごり湯”を選んでいることが多いことに気が付きます。
濁りによって自分の身体が見えないことによる現実逃避。
析出してカタチとなった粒子一つ一つに身体を包まれる安堵感みたいなもので、自身のバランスをとっているような気がします。

やはり、にごり湯って神秘的ですね。