「温泉なんてどこ行ったって同じよね~。行くの疲れるし家の風呂のほうが気持ちいい
。」
露天風呂から聴こえてきた若い女性たちの会話。

「あぁ…なんてもったいない!きっと良い温泉を知らないからだな。」と心の中で無念さを抱えながらも、数年前の自分と重ねつつ一念発起したのを思い出します。

私はこれまでに国内外1500湯ほどの温泉に入っていますが、生きている間に途方もない数の温泉を何パーセント制覇できるだろうかと、一湯一湯の新しい出会いに日々ワクワクしています。
しかし、“温泉”とひとくくりに言ってもバリエーションやクオリティに大きな差があることをご存知でしょうか?
硫黄泉、単純温泉、塩化物泉…泉質名は同じでも、一つとしてすべて同じ成分の温泉は存在しません。
私たち人間の姿形や性格が一人一人異なるように、温泉も成分のバランスや配合によって個性がまったく違うのです。

私が温泉を大好きになり現在に至ったきっかけは、温泉資格を取得し九州中の湯巡りをしたこと。
それまでは私も露天風呂で出会った女性たちと同じでした。
経験値や知識がふえていく中で自然に“温泉の本質”を見抜く力が徐々に備わり、今では身体がセンサーとなってワインや日本酒のエキスパートのように全身を使って五感で温泉の個性を判別できるようになりました。

お花のように甘いモール臭、磯の香りのような臭素臭、鼻を刺すようなインク臭、レモン入り炭酸水のような酸性の単純冷鉱泉、うどんの出汁のように美味しい塩化物泉など香りや味も様々。
肌のツルツル感もレベルがありますし、キシキシしたりペタペタはりついたり、激痛で入っていられない温泉だって存在します。
赤、青、黄、緑、黒など湯色もカラフル。
湯口で泡が弾ける音を聴いて成分を感知することだってあります。

ただ、お湯につかって気持ちいい~だけでももちろん良いのですが、こんなにもバラエティに富んだ温泉が存在する世界一の温泉資源大国である日本に住んでいるのですから、とことん温泉を楽しまない手はありませんよね。

ところで、皆さんはどのように温泉を選んでいますか?
食品や化粧品を選ぶ時にはデザインや話題性だけでなく、「成分」や「品質」などを情報収集して、安心安全でなるべくお肌や体に良いものを選びますよね?
これが家族の健康のためならなおさらです。

しかし、温泉に関してはいかがでしょうか?
施設が充実しているとか、値段が安いから、何となくイメージが良さそうなど、肝心な温泉のことはあまり気にしていない人が多いように感じます。
スキンケアにクレンジング、化粧水、乳液などのラインナップがあるように。
食べ物それぞれに栄養素やカロリーがちがうように。
温泉も泉質や鮮度や添加物などによって私たちへの体や肌に与える影響が大きく違ってきます。

ちなみに、私の温泉を選ぶ基準は、添加物がなく栄養分がつまった鮮度の良い“オーガニックな温泉”を選ぶようにしています。
私が温泉を探究するようになっていろいろな嬉しい心と体の変化がありました。
いつも35℃くらいの低体温ですぐに風邪をひき冷え性で辛かったのですが、今ではその頃よりも1℃以上体温が上がり風邪を引くこともなくなり年中手足がポカポカで生理痛もなくなりました。
また、以前はニキビや肌あれで悩んで高価な化粧品を使いエステにもたくさん通っていましたが、今では温泉をコスメやエステの代わりに利用することで肌トラブルがなくなったどころかどんどん肌がきれいになっている気がします。

そして、何よりも温泉に行くと心が寛大になれるということ!
温泉に入りながら怒っている人をまず見たことはないと思いますが、ちょっとした悩みやイライラがお湯の中にいっしょに洗い流され「まぁいっか。」と前向きな気持ちにさせてくれたり、よいアイディアが浮かんできたり、正しい判断ができるようになるのです。

逆に温泉に行けない日々が続くと、視野が狭くなり自分のことを小さく感じて「そろそろデトックスしなくちゃ。」と仕事やプライベートに影響しないよう自発的に“心の湯治”へ出かけるようにしています。
昔の文豪や政治家が温泉地に滞在していたのも納得です。

温泉は心と体のバランスを整えるリセットボタン。
海外出張での時差ボケもいつも温泉地でリセットしています。
私が今、心身ともに健康でとても幸せな日々を送れているのは温泉のおかげ。
だからこそ、温泉の素晴らしさを多くの皆さんに伝えたくてこうして筆を執っています。

これまでのように温泉地に行って娯楽として楽しむのももちろん良いのですが、日常生活からはなれ自然環境に恵まれた温泉地にゆっくりと身をおき、しっかりと自身の心と体の声に耳を傾け、地球からのたくさんのナチュラルギフトを受けとって露天風呂から笑い声が聴こえ続けることを心から願います。